「さまよう頭 前編」(23分) 未希さんは中学生の或る晩夏の出来事を忘れない。 その日は天気も良く放課後の帰路はまだまだ蒸し暑かった。住んでいた団地の敷地内にたどり着いたときは西日が大分傾き、大きな太陽が最後の光を放つ色は驚くほどに赤かった。 未希さんが住んでいたのは奥の棟、ところがこの日はそこに向かうまで誰一人すれ違う住人がいなかった。 隣の公園にも、敷地内にも自分以外の人の姿がない。 少し心細くなった時背後に人の気配がして、気味悪くなった未希さんは急いで部屋に走った。玄関ドアをくぐり、いよいよ閉めるという段になって、閉じ切らない隙間の足元に見たこともない女の顔が挟まっているのを見てしまった。無論生きた人ではない