六甲山脈に属する小さな山の頂には、池というにはあまりに汚い池があり、烏原の水源地と呼ばれていた。その池の周りはいつだって陰鬱とした空気に満ちており、長年手入れのされていないのが一目瞭然、鬱蒼と茂った下草は伸び放題、挙句数年に一度は事故か事件かわからない水死体が上がり、誰いうともなく「烏原にはお化けがいて、生きてる人を殺すに違いない」という噂があった。件の青年は詳しくは語らなかったが、おびえ切ってその区域への配達は出来ないので、クニハルさんの父が代わりに受け持つことになった。1年ほどは何事もなったのだがある冬の朝のこと……。