とかく怪談によく登場する鏡。あの世とこの世の境目になっているなどと言われるが、四十代の男性は若い頃に思いもよらぬ体験をしている。
当時設備関係の仕事に就いて間もない二十代前半、市内繁華街の雑居ビルの改修工事の現場でのこと。各フロアには小さな飲食店が入っている五階建てのテナントビルだったのだが、ある時現場の先輩から「五階の奥の部屋には一人では入ってはいけない」と忠告をされる。もちろん、言いつけに従って一人で入るつもりはなかったのだが、翌日の深夜、忘れ物を取りに一人真っ暗なビルに引き返した時、まるで引き寄せられるように件の部屋を覗いてしまう。ひと際大きな鏡に映ったのはもう一人の自分、そして……。
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