ノブヤさんが十五年ほど前、東北地方のスーツ販売店でチーフとして勤めていた時の事だ。ある日途中入社の新人さんがやってきた。教育係として担当になったのだが、 現れたのは恰幅のいい四十歳の吉田さんという女性だった。接客のイロハもわからず、身だしなみにも無頓着、おまけにヘビースモーカーで大の酒好き。物覚えは悪いし、同じミスは繰り返すというありさまだったが聞けば離婚して幼い娘を育てるために奮闘しているという。劣等生ではあるが屈託なくいつも明るい様子にノブヤさんも一方ならぬ情熱をもって接していたのだが、そのうちに仕事でしくじり解雇されてしまう。さらには解雇されてしばらく後くも膜下出血で突然亡くなってしまった。亡くなったはずの吉田さんが店に現れたのはすぐの事だった…。